2008年11月12日

定理: コーシー(Cauchy)の収束判定法 の証明

参考文献:
小平邦彦 著 『解析入門 I 』(岩波書店)


 微分・積分においては極限や無限の議論が前面に躍り出てくる.というわけで,数学史の話を兼ねて,ゼノンのパラドックスのお話から導入するのが良いであろうと考えた.一連のかなり長い議論を経て,実数の連続性を厳密に議論する デデキントの切断 にまで辿り着いた.しかしながら,この手の議論はかなり高級な部類に属し,これを前提にして微積分を組み立てていくのは大学1年生には無理がある.それではどうするべきか.ああでもない,こうでもないと悩んでいたが,だいぶ頭が整理されてきた.


(1) 実数の連続性公理は紹介する.
(2) その公理から証明される基本的定理 's だけを証明する.
(3)(2)は省略しても不都合がない形で書く.

 (2)の基本的定理 's は既に証明した「上に(下に)有界な数の集合には上限(下限)があること」や「中間値の定理」および無限数列の収束に関する基本定理「Cauchy の収束判定法」などである.

 今日はこの Cauchy の収束判定法
数列 が収束するための条件(=必要十分条件)は,任意の正の実数 に対応して1つの番号 が定まり
 ならば 
が成り立つことである.この条件を満たす数列 を Cauchy 列 という.
を小平先生↑による実数の連続性公理を直接用いる簡明な方法で証明しよう.ε-δ論法についてはこちらを参照のこと.

 必要条件:「 が収束するならば, のとき (←簡略表現です)」の証明は簡単である.
数列 に収束する( )としよう.それは厳密には次のことを表す:
数列 に収束するための条件は,任意の正の実数 に対応して1つの番号 が定まり
が成り立つことである.
このとき, ならば
が成り立つ.したがって, とすると,
が成り立つ.(証明終)

 十分条件:「 のとき ならば 数列 は収束する(←簡略表現です)」がこの定理の核心です.収束値を明示していないことに注意しよう.

 この証明は少々長くなり,微妙な点もあるので,前もって準備を三つほどしておこう.一つは収束に関する予備の定理である:
予備定理:数列 が実数 に収束するための条件は, となる実数 が任意に与えられたとき,不等式:
が,番号 について有限個の例外を除いて,成立する.
‘有限個の例外を除いて’という表現を用いたのは, に関する記述が露わには現れないからです.
 条件が必要であることを示します. が実数 に収束すると仮定すると,
が成り立つ.ここで, に注意して, の小さい方を とおくと,
, よって 
が成り立つ(記号 または を意味します).これらから, のとき が成り立ち,したがって,有限個の番号 を除いて
が成り立つ.
 次に,条件が十分なことを示します.有限個の番号を除いて ,よって,が成り立つ.ここで, の大きい方を とおくと, が成り立つ.したがって,除かれる有限個の番号の最大のものを とすると
  のとき 
が成り立ち, は実数 に収束する.これで予備定理が証明された.

 二つ目の準備は数列 の収束値( としよう)が明示されないとき, を利用して を嗅ぎつけるにはどうすればよいかです.そのヒントは の無限個の項は の近くに集中することにあります.
 予備定理の系:数列 に収束するとき,
ならば となる は高々有限個しか無く(※ 0個可)
のときには となる は無数にある.

 三つ目の準備は証明に不可欠な実数の連続性公理である:
実数全体 を次の条件を満たす空集合でない2つの部分集合 A,A’ に分割し,その組 <A,A’> を実数の切断と呼ぶ:(i) A’=Φ, A’ .(ii) A’ならば
このとき,実数の切断 <A,A’> は1つの実数( としよう)(の存在)を定め, の最大数または A’の最小数である(実数の連続性).
 これで準備が整った.十分条件:「任意の正の実数 に対応して1つの番号 が定まり, のとき ならば 数列 は収束する」が成り立つことを証明しよう.

  となる が高々有限個しかないような実数 全体の集合とし,A’ の補集合:A’ を満たす が無数にある実数 全体の集合) とします.したがって,明らかに A’A’=Φ.
このとき, ならば .また, A’ が空集合でないことは以下の議論からわかります:「 のとき 」において, として とおくと,
となる全ての について
が成り立つ.よって, となる は高々有限個しかなく, となる は無数にある.したがって, であるから A’は空集合でない.以上の議論から,< A’>は実数の切断をなし,1つの実数( としよう)が の最大数または A’の最小数として存在する.

 さて,数列 に収束することを示そう.そのためには先に示した予備定理の形に導けばよい. となる実数 が任意に与えられたとき,上の議論より だから, となる は高々有限個しかなく, となる は無数にある.ここで,「 のとき  ( は任意の正数)」を満たす は無数にあり,その中には となるものも無数にある.そのような を1つ選んで とする.
 したがって,
 のとき 
とすることができ, の小さい方を とすると,
だから,
 のとき 
が成り立つ.つまり,予備定理が成り立つことになるから,数列 は収束する.これで Cauchy の収束判定法定理の十分条件も示された.

cf. 少しでも初等的になるよう,小平先生のものに僅かながら変更を加えています.

清き one crick please (^^;) メモ of『なっとくの微積・解析』に一票
posted by TaD at 02:08| Comment(1) | TrackBack(0) | 学問 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
小平先生の本を勉強中の者です。

十分条件の証明で、
『このとき,ρがAの元、σがA´の元 ならば、ρ<σ.』
の箇所がわからず調べていたらこのページに辿り着きました。

ご教示を賜りたく存じます。
Posted by 匿名希望 at 2014年03月28日 12:49
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