2008年06月10日

上に(下に)有界な数の集合には上限(下限)があること---その証明

参考文献:
小平邦彦 著 『解析入門 I 』(岩波書店)
高木貞治 著 『解析概論』(改訂第3版,岩波書店)

 アリくんは超巨大な 蟻地獄 に落ちてしまった.
慌ててすり鉢斜面を分速9mでよじ登ったつもりだったが,1分後には9割もずり落ちて(1割の)0.9m しか登れなかった.次の1分間は9mの1分(=0.01)つまり0.09mしか登れず,次の1分間は0.009mしか登れず,結局3分間に0.999m登った.このように,登る効率はどんどん低下していき,結局,アリくんは
n 分間に0.99・・・9 m (9が小数点以下に n 個並ぶ) だけすり鉢を登ることができた.
 もし,すり鉢が2mあったら,それはアリくんの登り方:0.999・・・m では 到達できない 「上界」である.いや,すり鉢が1.1mとか1.01mであっても到達できない上界である.
すり鉢が1mだったらどうか.1mは有限の時間ではぎりぎり到達できない最小の上界つまり「上限」である.


 実数の連続性 を議論した .今日は,それから直ちに得られる基本的な定理:
上に(下に)有界な実数の集合には上限(下限)が存在する
を証明しよう.この定理は 中間値の定理 の証明に必要なだけでなく,実数列関連の定理としても基本的である.

 区間 (-∞, b],区間 (-∞, b),および数列 { an| an= b-1/n , n=1, 2, 3, ...} を考えよう.これらは実数の集合であり,今の場合,どの集合の要素も b 以下(未満)です.このとき,3つの集合は‘上に有界’であるといい,b およびそれ以上の実数は集合の上界といわれます.実数 b 自身は3集合に共通した最小の上界であり,上限といわれます.集合に最大値がある場合はそれが上限で,最大値がない場合でも上限が存在することに注意.
 一般に,実数の集合 S に対して,その任意の要素 x が超えない実数σが存在するとき( x ≦σ, x ∈S ),集合 S は‘上に有界’であるといい,実数σを S の上界といいます.上界となる実数は無数にあることに注意.このとき,定理: S の上界には最小値が存在し,それを上限( sup S )という.

証明:(ア)集合 S に最大値 m があるとき, S の任意の要素 x に対して x ≦ m.よって m は上界の1つである.m より小さい実数 m' を考えると,m'<m∈S だから,m' は S の上界ではない.したがって,m が最小の上界=上限である.

(イ)集合 S に最大値がないとき.(このとき,S の任意の要素に対して,S のより大きな要素が必ず存在することに注意).S の上界全体を A' = {σ|全ての x∈S に対して σ≧x } とし,A' の余事象を A = R - A' とすると,AA' = RAA' =Φ,および,AA' の任意の要素ρとσについてρ<σが成り立つ.したがって, < A, A' > は実数の切断をなし,実数の連続性により,その切り口に対応する実数は A の最大値,または A' の最小値(のどちらか)である.
さて,最大値が存在しない S の任意の要素 x に対して,x < x' である x' が S に 存在するので,S の要素が S の上界になることはない.よって,S∩A' =Φ,したがって,S⊂A である.このとき,もし A に最大値 m があるとすれば,S の任意の要素 x に対して,x≦m∈A となり,これはA には S の上界がないと仮定したことに反する.したがって,A に最大値はなく,代わりに A' の最小値が存在する,つまり最小上界=上限が存在する.

 同様にして,下に有界な集合には下限が存在することが示されます.
 高木先生↑,小平先生↑の証明は場合分けをしない巧妙な証明です.興味を持たれた方は『解析概論』,解析入門 I をどうぞ.

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posted by TaD at 17:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 学問 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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